SDGインパクトジャパン ニュースレター 10月号
コロナ禍を理由にストックホルムで離れて仕事をしていた当社のCISO(最高投資戦略責任者:Chief Investment Strategy Officer)のサシャ・べスリックが今月来日しました。
サシャは欧州でESG投資の草創期からこの分野に携わってきた、サステナブル・ファイナンスのリーダーのひとりです。
オンラインで、日々ESGのエンゲージメントに関するディスカッションを1年以上重ねてきていましたが、やはりメンバー一同、同じ会議室で議論をしているほうが、より活発な意見交換ができているような気がします。
11/1にサシャをはじめ、日本国内のESG投資の実務家・専門家が登壇するセミナーを開催しますので、ぜひこちらもご参加ください。
今回は、サシャが毎週書いているニュースレター「ESG on a Sunday」をご紹介いたします。歯に衣を着せないコメントが好評で、約20,000人の購読者がいます。
以下の記事は「ESG on a Sunday」の最近の記事を日本語で抄訳したものです。サシャが来日してからの活動の中から、日本や日本企業のESGに関する気づきを書き綴っています。
以下は抄訳版になりますので、日本語訳やニュアンスなどが多少の英語版と相違している可能性もあります。オリジナルの英語版にご関心がある方は、以下より「ESG on a Sunday」のニュースレター(英語)は以下から購読ください。
▼ESG on Sunday Week 41 ― 東京の真実とMike Wirth氏
皆さま、こんにちは。
日本は過去10年間、ESGに取り組んでいるが、ESGイニシアチブのほとんどは、西半球で提供されている一般的なESGの取り組みを反映しているため、日本の機関投資家および個人投資家市場の成熟度は先進的なヨーロッパ市場に遅れをとっている。
ただ、世界中でESGをリードするプレイヤーのほとんどが結果を示すことに苦慮している。ESGファンドX、Y、Zに投資すると何が得られるのか?大半のファンドにおいて、ポートフォリオマネジャーが机上でESGを「管理」し、カンファレンスなどで発表するだけの状態が横行している。
しかし、日本は「ESGはどこに違いを生み出し、どのように優れた企業を作るのか」「企業の取り組みが、企業や社会に対して実質的かつ具体的な成果を創出いるかどうか」など、ESGの本質的な課題認識を持っている。日本のアプローチが特有な点は、「長期的視点」「質」である。世界最大の年金基金である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、先駆的なESGアプローチによって政府系ファンドを先導する立場になっている。
同時に、日本は、他の多くの国と同様に、エネルギーの移行とネットゼロ目標に苦しんでいる。民間が気候変動への取り組みを実行するには、政府が企業にどれだけインセンティブを与えられるか、または大規模に実現可能な解決策の提供できるかにかかっている。多くの民間企業がそれが適切なタイミングで起こらないと、気候変動に対するコミットメントを達成するのが困難になること認識している。同時に、企業自身が自社の事業の変革を加速させ、「レジリエント(Resilient)」ビジネスを構築するのかは今後重要なテーマになってくるだろう。
激変するサプライチェーンやエネルギー・政治経済の中で、ESG的に「レジリエント」なビジネスを運営するというのはどういうことであろうか。
他の多くの市場と同様に、日本においても、トップダウンの慣行、情報開示の欠如、またサステイナブルな製品やサービスの投入の遅れなどの課題を有している。しかし、日本には他企業の努力やイニシアチブの加速を促すような真のグローバルリーダーである企業が数多く存在する。日本では同調圧力は重大だ。東京で私は非常に興味深い質問を受けた。「ESGのどの部分で欧米企業はより優れているのか。欧米のどんな企業がもっとも具体的なESGの結果を出しているのか。」私はその問いに答えることはできなかった。
シェブロンCEOの正直で醜い言葉
シェブロンのCEOであるWirth氏は、現在のエネルギー供給不足を取り上げ、西側諸国の政府が実行した脱炭素政策を批判している。欧米がエネルギー市場の安定化のために進めている気候変動対策(再生エネルギー調達)の「倍増」は、エネルギー供給をより不安定で、予測不可能なものし、世界の石油とガスの供給危機を悪化させていると非難した。また化石燃料から移行するための時期尚早な取り組みが、欧州やカリフォルニアでのエネルギー供給不安をもたらしたと述べた。
過去 20 年間、世界的に再生可能エネルギーに多額の投資が行われてきたにもかかわらず、化石燃料は依然として世界の需要の約 80% を満たしているため、各国政府はエネルギー問題の規模について「率直な対話」を行う必要があった、と Wirth 氏は述べている。
また彼は「現実には、(化石燃料)が今日の世界を動かしている。それは、明日も、5 年後も、10 年後も、20 年後も、世界を動かし続ける。」と述べた。そう、今日このような状況にあるのは、同社のような企業と彼のような人が30年前と同じ見解を述べ続けているからだ。
英国の干ばつは2023年春まで続く
Wirth氏が発言する通り、10年・20年後に果たして化石燃料がエネルギー問題の解決策になり続けるだろうか?
記録的な降水量の減少により英国の水が不足し、英国は2023年初以降に干ばつに陥る可能性が判明した。このニュースは、来年に作物を植えて収穫できるように、秋と冬の貯水池の補充を望んでいた農家にとって大きな問題だ。英国を干ばつから救うためには、秋から冬にかけて一貫して平均以上の降水量が必要だが、現時点ではその可能性は低い。水道会社は抜本的な節水対策を講じ、重要ではない水の使用を全て禁止するかもしれない。そうなれば、プールに水を入れることは禁止され、住居以外の建物は清掃することができなくなるかもしれない。
今後このような極度に乾燥した気候になる可能性がますます高くなっているため、National Drought Group(NDG)は長期的なレジリエンスを確保する方法に取り組んでいる。
NDGの会長であるJames Bevan氏はこう述べている。「我々の生命や生活、もしくは自然のすべてはひとつのものに依存する。それは『水』だ。気候変動と人口増加の中で、今後数十年にわたり、水の供給をいかに確保するか、特に干ばつの発生を考慮した対策を取らなければならない」
詳細はこちら: https://www.theguardian.com/environment/2022/oct/14/england-could-be-in-drought-beyond-spring-2023
欧州の役員報酬に占めるESG部分
さて、Wirth氏は以下の事実に目を向けるべきだろう。彼の世界では「報酬」が1番の関心ごとであるだろうから。
“欧州トップ100社のうち、42社がESGの指標を役員報酬の指標に組み込んでいる”
ESG パフォーマンス指標を役員報酬の構成要素に反映させることは、持続可能な開発目標に対する企業のコミットメントを強調し、これらの目標を達成する上での役割と責任を上級役員にフォーカスさせる方法としてますます有効になっている。
最近の調査によると、欧州企業の上位100社のうち42社が、経営陣の報酬の変動要素としてなんらかの方式でESGを取り入れている。また、その割合は急増しており2008年時点では全体の4%程度の導入率だったものが2022年に39%までになっており、もっとも導入率の高いフランスでは79%(2021年)、イギリスでは2008年に8%であったが、2021年に54%になっている。
この変化の原動力は何か。規制措置、投資家からの要求、そして持続可能な社会に対する世界的な意識の高まりがすべて、企業の持続可能な取り組みが貢献している。
法改正により、企業の役員報酬のさらなる改善に期待が高まっている。欧州のいくつかの国では、サステナビリティを促進するための規定が追加されている。改正・株主権利指令(The Shareholder Rights Directive II) は、企業の情報開示における ESG と、報酬計画における非財務指標に関する透明性の向上も規定している。
サステナブル・ファイナンスは欧州の最優先事項
欧州証券市場監督機構(ESMA)は、持続可能な金融の実現とデータの効果的な使用が2023年の最優先事項であると述べた。
ESMAは、2023年末までに、サステナブル・ファイナンス開示規則(SFDR)に基づいて残りの技術基準を構築し、グリーンウォッシングをよりよく理解し、対応策を計画していると述べた。
詳しくはこちら: https://www.funds-europe.com/news/sustainable-finance-data-top-esma-2023-priorities
PwC報告書から:市場の成長を上回るESG、反発もなしか
PwCによる新しい調査によると、機関投資家の9割近くが、資産運用会社は新しいESGファンドの開発により積極的に取り組むべきだと考えるのに対し、新規のESGファンドの設定を計画している資産運用会社は半数未満だった。
レポートはこちら: https://www.pwc.com/awm-revolution-2022
需要が供給を上回るこの調査結果は、米国での反ESGの動きと対照的だ。例えば、ルイジアナ州は先週、ESGの過度な強調に対する懸念により、投資からの撤退を表明した。ブラックロックによって提供された戦略に焦点を当てたその発表は、フロリダ州とテキサス州による反ESGの動きに続いたものだ。
PwCは、ESGファンドの運用資産はアセットマネジメント市場全体の成長率よりもはるかに早く成長すると予測している。ESG戦略を取る投資信託は2021年から2026年にかけて年率12.4%成長し、特にアクティブ投資戦略は年率12.2%、パッシブ投資戦略は年率17%の成長と予測している。
※英語原文は以下をご参照ください。
▼イベント・セミナー関連
Grow Impact Accelerator Demo Day
10月27日にGrow Impact Accelerator Demo Dayがシンガポールで行われます。
Grow Impact Acceleratorはアグリフードテクノロジー分野のアーリーステージで社会課題を解決できるインパクト重視のイノベーションへの投資を促進するため、2020年に設立されました。
当日は、360社のスタートアップから選ばれた9社がピッチを行う予定です。
11月10日に動画配信されますのでぜひご覧ください!
11月1日 セミナー開催のお知らせ
11月1日(火)16時~18時に、セミナー「次世代のESG投資への挑戦~サステナビリティと競争力あるリターンの両立」を開催いたします。この度来日した当社CISO・Sasja BeslikをはじめESG投資業界の第一人者の皆様によるパネルディスカッションを行います。
日時: 11月1日(火)16:00-18:00
主催: 株式会社SDGインパクトジャパン
場所: CIC東京(港区虎ノ門 1-17-1 虎ノ門ヒルズビジネスタワー 15F)
定員: 【リアル】30名程度* 【オンライン】定員なし
費用: 無料
参加登録: https://nextesg.peatix.com/
そのほかのニュースはこちら
https://sdgimpactjapan.com/jp/news/