▼コラム:COP27の結果と気候変動を取り巻く国際情勢
SDGインパクトジャパンで主に気候変動対策など環境関連を担当している栗田です。
エジプトのシャルムエルシェイクで11月6日~18日の日程で開催された国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(UNFCCC COP27)は、会期を1日半延長し現地時間11月20日の昼前に全体会合が終了し、Sharm el-Sheikh Implementation Planを採択して閉幕しました。延長の要因となった理由は報道されている通り、ロス&ダメージ(損失と損害)に対する新たな基金創設に関して先進国と途上国の意見の対立、調整が長引いたためです。当初から6年ぶりの途上国でのCOP開催であり、資金支援の問題が中心になると予想されていましたが、今回初めて損失と損害が議題となったことは大きな意味がありました。
今までCOPにおいては、緩和と適応という2つの概念で気候変動対策を進めてきましたが、パキスタンでの洪水、アフリカにおける干ばつ、島しょ国における海面上昇、フィリピンの台風被害等想定を超える気候変動の悪影響が世界で発生しており、気象災害に対して脆弱な途上国に対しては従来の緩和と適応では間に合わず、早急な対策が必要との共通認識が示されました。このような背景により、COP27では損失と損害に対する新基金についてCOP28までに詳細を議論し、採択を目指すことが決定されました。
また2030年目標値については、2.0℃目標の達成を目指しつつも、1.5℃を意識し、2019年比で43%のCO2削減を目指すことが引き続き明記されました。欧州各国からは石炭火力の廃止という文言が入っていなかったことによる失望の表明があったものの、ロシアによるウクライナ侵攻の影響で化石燃料への依存が強まる傾向を示す中で、気候変動対策へのモーメンタムを失わないという強い決意が共有されたことは大きな意義があったと思います。
このような気候変動対策に向けてグローバルな努力が続けられている中で、ウクライナ侵攻によって気候変動への悪影響のみならず、エネルギー供給不安、食料危機、人権蹂躙を引き起こしたロシアの行動は最も憂慮される出来事です。先日のノルドストリームの爆発によりメタンの大量放出が懸念されていますが、これはロシアのオイル&ガス産業から漏洩しているメタン1500万トン/年の1.5%に過ぎないと推定されています(温室効果係数を考慮すると、ロシアのオイル&ガス関連からは凡そ4億トンのCO2が排出されており、これは産業からのメタン排出量として世界最大となる)。
加えてシベリアの永久凍土融解によるメタンガスの放出と森林火災も増加しており、ロシアは自らの化石燃料依存体質により気候変動の悪影響を受ける事態に陥っています。またロシアのウクライナ軍事侵攻によって直接排出されたCO2は、報道によると3,400万トンに達すると試算されています。
これ以外にもロシアに侵攻されたウクライナの地域では、戦争破壊による深刻な環境汚染が発生していると言われています。これらの行いに対するロシア政府からの明確なメッセージや対応策は一切見えてきません。国際社会は、常任理事国でもあるロシアの極めて無責任な行動を止めるためにも、脱化石燃料を強力に推進しなくてはなりません。
一方、日本政府はArticle 6 Implementation partnership(パリ協定6条実行パートナーシップ)を立ち上げ、40の国と23の機関が参加し、知見の共有やキャパシティビルディングで協力していくことをCOP27において表明しました。賛同国には米国、ニュージーランド等が含まれており、今後は環太平洋地域を中心として、パリ協定下でのカーボンクレジットの活用が一層促進されると期待されます。
パリ協定6条の重要な意味合いは、経済的手法を用いた効率的な排出削減を可能とすること、また公的資金だけでは困難な気候変動対策に民間資金を呼び込むファイナンスの仕組みを提供することです。2015年のCOP20において約束された先進国からの年間1000億ドルの途上国支援基金は、未だに目標達成されておらず、途上国の不信感を招いています。2030年までに1.5℃目標を達成するためには、年間4兆ドルの資金が必要との試算もあります。
このような金額を公的資金のみで賄うことは現実的に難しく、民間資金をいかに誘導し、途上国における再生可能エネルギーの導入などを促進していく枠組みを政策レベルで提供できるかが重要です。パリ協定6条の活用やIMFが提唱する公的資金と民間資金のブレンデッド・ファイナンスの考え方は、官民をあげた緩和の取組みを一層推進させるために意識されるべきでしょう。
次回COP28は、2023年11月30日~12月12日にUAEのアブダビで開催が予定されています。ターニングポイントとされる2030年まで人類に残された時間は限られており、気候変動の悪影響を食い止めるための実行が求められています。そのために私たちは、あらゆる政策・財政手段、技術を総動員しなければなりません。
今は武力を振り回している時ではないのです。
株式会社SDGインパクトジャパン
シニアパートナー/気候変動専門家 栗田 永幸
▼ウェビナー開催のご案内
来る12月19日に栗田によるカーボンクレジットに関するウェビナーを開催いたします。カーボンクレジットの動向と今後の展望を理解し、脱炭素に企業や金融機関がカーボンクレジットをどのように活用してばいいのかを考える機会にできればと思っています。
【脱炭素セミナー】カーボンクレジットの最新動向と企業の活用戦略
12月19日(木)14:00-15:00 オンライン
詳細&お申し込みはこちら:https://carboncredit.peatix.com/
▼イベントレポート:『選ぶ投資』から『育てる投資へ』
11月1日(火)に、「次世代のESG投資への挑戦 ~サステナビリティと競争力あるリターンの両立~」と題したセミナーを開催いたしました。
当セミナー後半のパネルディスカッションでは「揺らぐESG、揺らがないESG」という題目で世界情勢、ESG理論、アセットオーナーおよび投資家の立場、などさまざまな側面における貴重な議論がありました。
そのなかで、「ESGは儲かるのか?」という議論があり、とても興味深かったのでご紹介させてください。
この議題に関して、SIJの社外取締役で、京都先端大学ビジネススクール教授でもある加藤教授は次のようなコメントをしていました。
「ESGのスコアや格付けが良い会社は、基本的にリスクが低い会社。つまり資本コストは低い。リスクをとってリターンを得るという資本市場の基本から解釈すると、儲からない投資先、ということになる。」
「だからこそESG投資は短期的に収益を上げるというより、長期的に投資を続けることによりマーケット全体、つまりベータ自体を上げるということにつながっていくべきなのではないか」
「一方で、過去、ESG投資で投資先企業の株価が上昇して儲かったというデータも多い。これは「ESG」をひとつのファクターとみなした場合、そのファクターに対してモメンタムが効いたということではないだろうか。市場のアノマリーと言えるだろう。」
つまり、従来のESG投資の多くは、本質的には「企業や産業、国の価値を上げる」ということに直接的につながっていたわけではなく、単に需要を集めたから値段が上がったというに過ぎない疑いがある、ということです。
それでは、通常の投資と、ESG投資は何が違うのでしょうか?
ESG投資の歴史は浅いため、十分な過去データがなく、過去の検証が難しいため、加藤教授は京都大学および日立製作所と共同で「社会的リターンが経済的リターンにつながるか?」ということについて「将来のシミュレーション」を行っています。
2050年までを想定して将来シミュレーションを行ったところ、ある明確な、いくつかのESG項目が同時に改善した場合、明確な分岐点が発生し、企業価値(ROA)が改善されるということが示された、ということです。
その分岐点にとくに感応度が高いのは、ESG関連指標のなかでも地域活性化や少子高齢化にかかる指標でした。つまり、企業の自助努力だけではなく、政策や政治の関与が非常に大切だと言えます。
また、足元のESG課題について、加藤教授は次のようにコメントされていました。
「そもそも企業のESG関連情報をはじめとした非財務情報のディスクロージャーもまだまだ発展途上といえる。アノマリーのかたまりであり、収益機会につながるという面もある」
投資家としては、このアノマリーを追求する、もしくは投資先企業とエンゲージメントをして、投資家として投資先企業の超過価値自体をつくりだすことはできるだろう、とのことです。
そういう意味では、当面は(ESG改善によりベータ自体が上がるまでは)この「投資先の超過価値をつくりだす」、つまり、アクティブ運用が非常に効くと言えます。
ESG投資は、単に「ESG優等生の会社を選んで投資をする」という段階から、「ESG優等生にするべくエンゲージして投資先企業の超過価値をつくりだす」という段階に移ったということができるでしょう。
これからの収益があがるESG投資は「選ぶ投資から育てる投資」だろう、と加藤教授は締めくくっていました。
株式会社SDGインパクトジャパン
ディレクター 藤村 真紀子
▼ウェビナー開催のご案内
【脱炭素セミナー】カーボンクレジットの最新動向と企業の活用戦略
12月19日(木)14:00-15:00 オンライン
詳細&お申し込みはこちら:https://carboncredit.peatix.com/
▼SIJの活動状況・ニュース
■Sasja Beslik 基調講演動画のご案内
11月1日 に開催いたしましたセミナーの、当社CISO/Sasja Beslikによる基調講演をまとめた動画をYoutubeで限定公開いたしましたので、ぜひご覧ください。
(英語/自動キャプション)
「グローバルのESG新潮流と日本における投資機会」
https://youtu.be/417hZ9z_r9s
■Grow Accelerator Program
前回の臨時号でご案内いたしました、「GROW Impact Accelerator 2022 - Virtual Demo Day」の動画が公開されましたのでぜひご覧ください。
そのほかのニュースはこちら
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