▼AVPNイベントレポート
2023年6月20-23日にマレーシアのクアラルンプールで開催された、世界各国のインパクト投資家が集まるアジア最大級のインパクト投資イベントであるAsian Venture Philanthorpy Network(AVPN)によるAVPN Global Conference 2023に参加してきました。
AVPN Global Conferenceは開催12年目を迎え、私は今回は2回目の参加でした。徐々に規模を拡大し、コロナ禍も乗り越え、今回は世界各国から1000人以上の参加者が来場し、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相も参加、本領域のアジアを代表するイベントとなってきています。
本カンファレンスには弊社CEOのBradley BusettoもAIとソーシャルインパクトに関するセッション「AI for Social Impact and Climate Action」にパネリストととして登壇しています。
ベンチャー・フィランソロピー(Venture)とは?
「ベンチャー・フィランソロピー」という言葉、聞き慣れない方は多いかもしれません。スタートアップを中長期的な資金供給と、経営支援などのサポートを通じて育成し、財務リターンを得る投資手法はベンチャー・キャピタル(VC)と呼ばれますが、その手法を社会的インパクトを創出する事業の育成に活用したものが「ベンチャー・フィランソロピー」と呼ばれます。
「ベンチャー・フィランソロピー」は、1990年代より米国西海岸を中心に成功した起業家や投資家、ファミリーオフィス、イノベーション志向を持つ財団などによって組織されました。寄付などのチャリティ活動に依存する非営利事業だけでなく、ビジネスの手法・考え方を適用し、事業・活動の持続性を維持しつつ、社会的なインパクトの深化とスケールの拡大に向けて資金や時間等のリソースを投入する取り組みとしてグローバルで広がってきました。
このようなベンチャー・フィランソロピーの考え方をいち早く取り入れた米ロックフェラー財団は、2007年にインパクト志向型の新しい資金提供の在り方として「インパクト投資」を提唱しました。今日のインパクト投資は、社会的責任投資(SRI)やESG投資、発展途上国等のグローバルな課題解決に向けた投資、ソーシャルベンチャーなど、社会的課題解決とビジネス・投資を両立させる様々な取り組みを包摂していますが、インパクト投資の流れの源流とも言えるのがベンチャー・フィランソロピーです。
AVPNは、アジアにおいて、このようなベンチャー・フィランソロピーの流れに賛同・関心を持つ企業や財団、機関投資家、ファミリーオフィス、非営利組織、スタートアップなど33カ国、600以上の組織・団体により構成されるネットワークです。日本からは日本財団やトヨタ財団などの財団や、ファーストリテイリング、富士通などの企業、インパクト志向のスタートアップなどが参加しています。
AVPN Global Conference 2023
カンファレンスは気候変動やジェンダーエンパワーメント、高齢化社会、ヘルスケア、障がい者インクルージョン、などの社会課題を軸にしたセッションや、財団やファミリーオフィスによるフィランソロピー活動や、企業のCSRやインパクト領域への取り組み、そしてインパクト投資やブレンデッドファイナンスなどの金融手法に関するセッションなどもあり盛りだくさんでした。
AVPNは財団や国際機関など、従来は寄付などの無償資金の出し手が多く参加していることから、インパクトを生み出しスケールするためにリターンを求めない無償資金でリスクをカバーすることで、リターンを求めるより規模の大きな民間の有償資金を呼び込む「ブレンデッドファイナンス」の議論が出ていました。
ブレンデッドファイナンスを推進するConvergenceという組織では、民間企業や投資家などのリターンを求める資金の出し手と、財団や国際機関などの無償資金の出し手を繋ぐプラットフォームを構築し、様々なリスク・リターン特性をもつ資金を組み合わせることで新たなお金の流れを生み出すプログラムを展開しており、発展途上国の農業での新しいファイナンスの事例紹介が行われていました。
Convergenceでは「Design Funding」というプログラムで、プライベートエクイティファンドなどの投資家に対して、途上国の気候変動や農業といった領域における新たなファイナンスモデルの構築に向けたF/SやPoC資金を供与することで、これらの民間資金のインパクト領域への呼び込みを行っています。この資金の原資には、社会課題の解決やインパクトのスケール拡大を目指す財団や国際機関の無償資金が活用されており、資金特性の異なるプレイヤーがうまく混ぜ合わさり、グローバル課題解決という大きな目標に向かうモデルになっています。
気候変動に関するセッションも多数開かれていました。参加した一つのセッションでは、発展途上国のプロジェクトなどの通常のビジネスモデルでは経済性が担保できないプロジェクトに対して、カーボンクレジットなどを通じて環境価値を経済価値に組み入れること成立させるようなモデルについて議論がありました。これも異なる価値を掛け合わせて成立する「ブレンデッド・ファイナンス」のあり方の一つです。
これを聞いて思い出したのがベンチャー・フィランソロピーの創成期を担ったJed Emerson氏が2000年に提唱した「ブレンデッド・バリュー」の考え方です。Jed氏は非営利・営利かかわらず全ての企業・組織・投資家は、経済的価値のみ、社会的価値のみといった境界にとらわれず、経済価値・社会価値・環境価値を含めた「ブレンデッドな価値」の総量を高めていくことが必要、という議論でした。Jed氏の「ブレンデッド・バリュー」の考え方は当時は非常に新しく、その頃は概念的な話でしかありませんでしたが、20年を経て彼のコンセプトは様々な形で社会に浸透し、実装され始めている印象を受けました。
今回のコンファレンスでAVPNが掲げたテーマに「Transformational Collaboration(変革をもたらすコラボレーション)」というものがありました。このような多様な関心をもつ主体が、それぞれの目指したい価値を追求しつつ協働することで、より大きなインパクトを生み出していく、ということがまさに今回のコンファレンスが目指したところなのだろうと思います。
AIとソーシャルインパクト
弊社Co-CEOのBradley Busettoが、「AI for Social Impact and Climate Action」と題するセッションのパネルとして登壇しました。
セッションでは、近年のOpenAIなどの生成形AIの勃興を踏まえて、AIの深化がインパクト創出にどのような影響があり得るかを議論しました。弊社のBradleyに加え、ボストン・コンサルティング・グループのサステナビリティ分野の東南アジア統括ディレクターのDave Sivaprasad氏、Impact Intelligence社のNiko Moesgaard氏、Open Government Products社のChi Ling Chan氏がパネルに参加しました。
本セッションにおいて、弊社のBradleyからは以下のポイントを挙げました。
サステナビリティやインパクトの領域においては、ESGデータやインパクトの測定や評価、開示に大きな負荷(=コスト)がかかっている
AIによってインパクト測定や評価・管理のためのデータ収集や分析、開示作業を自動化できるとインパクトのための「コストプレミアム」を抑えることが可能
これらはインパクト領域における、AIによる直接的なメリット。しかし、より本質的なものとして、AIの導入が企業活動のサステナビリティを向上させる可能性がある
例えば、生産プロセスやサプライチェーンにおいてAIが導入されることで、プロセス内で発生している無駄や無理がより細かいレベルで明らかにし、省エネ活動を自動的に行うようなことが可能
上記の1例として、GoogleのAI研究機関Deepmindの共同創業者が立ち上げた、米スタートアップのPhaidraが挙げられました。同社は医薬品の製造工場からデータセンターまで、生産現場におけるあらゆる加熱・冷却プロセスのデータ管理とエネルギー利用の最適化をAIで実施することで、製造プロセスにおいて30%程度の水準で省エネ化を達成している事例が紹介されました。
終わりに
アジアでは富裕層の世代交代が起きつつあり、若い世代が親やファミリーからコングロマリットを引き継ぎ、新たなリーダーとして率いるケースが増えてきています。これら社会課題に関する意識が高い世代が、金融やビジネスのノウハウを積極的に取り入れて、自らが引き継いだ富を活用して新しいお金の流れを生み出そうとしている、そんな感触を肌で感じました。日本ではファミリーオフィスの広がりが限られているため、あまり肌感として感じられませんが、アジアにおいてはこれらのプレイヤーが今後の国・地域を動かす原動力になると思います。
日本においては、企業や政府が積極的にサステナビリティやインパクト領域に取り組むなど、また異なる良さを持っています。これらアジアのニューリーダーや日本のインパクトプレイヤーがつながり、協働することで「Transformational Collaboration」を生み出せるようなプラットフォームの構築に向けて、弊社としても何らか取り組んでいくことができればと思います。
(SDGインパクトジャパン パートナー 広瀬大地)
▼「企業価値向上のための人的資本」セミナー
現在、社会的視点、経済的視点、戦略的視点とさまざまな視点で人的資本が注目され、あらゆるところで人的資本について語られています。人材は企業にとって価値創出の源であり、重要な資本であり、企業が持続的に成長を続けるためには一人ひとりの能力を引き出す取り組みが必要です。また、投資の世界でも上場企業などを対象に人的資本の情報開示が2023年3月期決算から義務化され、投資分析にどのように統合していくのか議論されています。
当セミナーでは、人的資本理論の第一人者であり、人的資本理論でノーベル経済学賞を受賞された故ベッカー教授に師事された一橋大学大学院小野教授を迎えます。前半は小野教授のご講演、後半は弊社Co-CEO小木曽とのパネルディスカッションを予定しています。小野教授のご講演では、人的資本論の学術的基礎を学んでいただき、企業経営、人材育成への活用に向けて参考にしていただけますと幸いです。また、パネルディスカッションでは投資の観点からも、中長期的な企業価値の向上や持続的成長を促す観点においてどのように企業評価に組み込むのかを議論する予定です。
第一回:7月11日(火)12:00-13:00
Part1 人的資本の基礎-ミクロ編 なぜ人的基本は大切なのか
Part2 パネルディスカッション第二回:7月18日(火)12:00-13:00
Part1 人的資本の基礎-マクロ編 人的資本と経営戦略のかかわり
Part2 パネルディスカッション
主催:株式会社SDGインパクトジャパン
セミナー形式:オンライン開催(Zoom)
定員:定員なし
費用:無料
参加登録:https://humancapital.peatix.com/
※ご講演者、タイトル、スケジュール等変更の可能性があります。
▼7月25日 AgFunderイベントのお知らせ
AgFunder及びJETRO主催で、アグリ・フードテックに取り組むスタートアップ、大企業、政府、投資家、支援者が集まる大イベント「アグリ・フードテック・ミートアップ2023」を開催します。
シリコンバレー発、世界で最も投資活動が活発なアグリ・フードテック専業VCのAgFunderのファウンダーや、同社が投資する海外アグリ・フードテックスタートアップも来日、アグリ・フードテックに取り組む日本の大手食品企業のパネルや日本のスタートアップのピッチイベントを行います。
日時:7月25日 15:00-18:00(イベント)、18:00-20:00(交流会)
主催:AgFunder Asia Pte Ltd.、日本貿易振興機構(JETRO)
運営主体:株式会社SDGインパクトジャパン
セミナー形式:ハイブリッド開催
会場:新丸の内ビルディングコンファレンススクエア
費用:無料
参加登録:https://agrifoodtechmeetup2023.peatix.com/
※ご講演者、タイトル、スケジュール等変更の可能性があります。